プロ野球のニュースを見ていると、オフシーズンやシーズン中に「ウェーバー公示」という言葉を耳にすることがあります。名前は聞いたことがあっても、具体的にどのような手続きが行われているのか、詳しく知っている方は意外と少ないのではないでしょうか。選手がチームを離れる際の大切なルールの一つですが、少し複雑なイメージがありますよね。
この制度を理解すると、ひいきの球団がどのように戦力を補強し、また選手たちがどのように新しい活躍の場を見つけていくのかがより深く見えてきます。野球観戦の面白さがさらに広がるはずです。この記事では、ウェーバー公示の基礎知識から、なぜこの制度が必要なのか、ファンとして知っておきたいポイントまで、専門用語を噛み砕いて丁寧に解説していきます。
2026年シーズンを前に、改めてプロ野球のルールをおさらいしておきましょう。これを読めば、スポーツニュースの移籍情報がもっと興味深く感じられるようになります。それでは、ウェーバー公示の仕組みを一緒に見ていきましょう。
ウェーバー公示とはどのような制度?基本の仕組みを解説

ウェーバー公示とは、簡単に言うと「球団が選手との契約を解除する前に、他の球団へ獲得のチャンスを順番に提供する手続き」のことです。プロ野球では、球団が一方的に選手を自由契約にする前に、必ずこのプロセスを通さなければならないケースが多くあります。これは、特定の球団だけが有利にならないようにするための公平なルールです。
選手が移籍・退団する際に発生する手続き
プロ野球選手が現在の所属球団を離れる際、球団は日本野球機構(NPB)に対して「この選手との契約を解除したい」という申請を行います。これを受けてNPBが行うのがウェーバー公示です。公示された選手は、一定期間(通常は7日間)、他の全球団からの獲得申し込みを待つ状態になります。
この期間中は、選手はまだ元の球団に籍がありますが、実質的には「移籍先を募集中」という身分になります。もし他の球団が「うちに欲しい!」と手を挙げれば、その選手はその球団へ移籍することが決まります。この際、元の球団は獲得を希望した球団からの申し込みを拒否することはできません。選手にとっても、戦力外通告を受ける前に他球団でプレーを続行できる可能性が残される重要なステップです。
公示期間が終了してもどの球団からも声がかからなかった場合に限り、その選手は「自由契約」となり、どの球団とも自由に交渉できるようになります。つまり、ウェーバー公示は自由契約になる一歩手前の、全球団参加型の優先交渉権争奪戦のようなものだと考えると分かりやすいでしょう。
獲得希望球団が優先順位に従って決まる
ウェーバー公示の最大の特徴は、獲得を希望する球団が複数現れた場合に「早い者勝ち」ではなく、「決められた優先順位」に従って移籍先が決まるという点です。この優先順位のことを「ウェーバー順」と呼びます。この仕組みがあるおかげで、リーグ内の戦力バランスが保たれるようになっています。
基本的には、その時点での順位が低いチーム(下位球団)ほど優先順位が高くなります。弱いチームが優先的に良い選手を補強できるようにすることで、リーグ全体の強さを底上げし、試合が一方的にならないように配慮されているのです。この「弱者に優しい」ルールが、プロ野球の盛り上がりを支える一つの柱となっています。
もし全ての球団が獲得を見送った場合は、ウェーバー不成立となります。この時初めて、選手は自由な立場として、海外リーグや独立リーグを含めたあらゆる選択肢を検討できるようになります。公示は、いわば球界内での「再就職あっせん」の第一段階としての役割を果たしているのです。
選手にとってはチャンスが広がるシステム
ファンからすると、ウェーバー公示は少し寂しいニュースに聞こえるかもしれません。しかし、選手にとっては必ずしもネガティブなことばかりではありません。現在のチームでは出番に恵まれなかった選手が、この制度を通じて自分を必要としてくれる新天地を見つけるきっかけになるからです。
例えば、層の厚い球団ではベンチ入りすら難しかった若手選手が、ウェーバー公示を経て選手層の薄い他球団へ移籍し、そこでレギュラーとして開花するケースは珍しくありません。選手としての寿命を延ばし、再び一軍の舞台で輝くための救済措置としての側面も持っています。
また、ウェーバーによる移籍の場合、基本的には現在の年俸や契約条件がそのまま引き継がれます。自由契約になってからの再契約では年俸が大幅に下がることが多いですが、ウェーバーでの移籍なら条件が守られるため、選手にとっては経済的なメリットも大きいのです。野球を続けたい選手にとって、公示は「新たな扉」が開く瞬間とも言えます。
【豆知識:ウェーバー(Waiver)の意味】
英語の「Waiver」には「権利の放棄」という意味があります。プロ野球においては、所属球団がその選手を独占的に保有する権利を放棄し、他球団に譲渡することを指します。公示(こうじ)とは、公に知らせるという意味なので、「球団が権利を放棄することを皆に知らせる」というのが直訳に近いニュアンスです。
ウェーバー公示が行われる主なケースとタイミング

ウェーバー公示は、年間通していつでも行われるわけではありません。野球協約によって、公示が必要なタイミングや状況が細かく定められています。主にどのような場面でこの言葉を耳にすることになるのか、具体的なケースを見ていきましょう。時期によって、その公示が持つ意味合いも少しずつ変わってきます。
戦力外通告や契約解除のタイミング
最も一般的なのは、球団が選手に対して「来季の構想から外れている」と伝える戦力外通告の際です。特にシーズン中やオフの早い段階で選手を放出する場合、球団は勝手に自由契約にすることはできず、まずはウェーバー公示にかけなければなりません。これは、選手が路頭に迷う前に、他球団が獲得するチャンスを保証するためです。
特に不祥事や自己都合による解雇ではなく、純粋に戦力的な理由で契約を打ち切る場合は、この手続きが必須となります。公示期間の7日間は、いわば「お見合い期間」のようなものです。この間に他球団から連絡があれば、トレードに近い形で移籍が成立します。ファンの間では、この公示が出ることで「あの選手はもう今のチームを去るんだな」と実感する寂しい節目でもあります。
ただし、育成選手(一軍の試合に出られない練習生扱いの選手)から支配下選手(一軍登録が可能な選手)に昇格させたい場合や、その逆の場合など、チーム内の事情で形式的に公示が必要になることもあります。ニュースの見出しだけで一喜一憂せず、その公示がどのような意図で行われたのか、背景を探ることが大切です。
育成契約への切り替え時に行われるケース
近年のプロ野球でよく見られるのが、支配下登録されている選手を一度「育成選手」として再契約する場合に行われるウェーバー公示です。怪我のリハビリに専念させたい場合や、若手選手の成長をじっくり待ちたい場合、球団は一度支配下枠(70人の制限がある枠)から外す必要があります。
この際、ルール上は一度契約を解除することになるため、形式的にウェーバー公示を通さなければなりません。球団としては「育成で再雇用したいけれど、もし支配下で獲りたい他球団があればどうぞ」という姿勢を示すことになります。ほとんどの場合は他球団も空気を読んで獲得を見送りますが、まれに優秀な若手が公示された際には、他球団が割り込んで獲得する「強奪」に近い形が起こる可能性もゼロではありません。
このように、退団を目的とした公示ではなく、契約形態の変更に伴う「事務的な手続き」としての公示もあります。10月や11月に多くの選手が公示されることがありますが、その中には来季も同じチームのユニフォームを着て、育成選手として再スタートを切る選手も大勢含まれています。
シーズン中の補強期限との関係
シーズン中にもウェーバー公示が行われることがあります。特にトレード期限(通常は7月末)が近づくと、球団は戦力の整理や入れ替えを急ぎます。新しい助っ人外国人選手を獲得するために、現在登録されている外国人選手をウェーバーにかけて枠を空けるといった動きです。
シーズン中の公示は、下位に沈んでいるチームにとって大きなチャンスです。他球団でくすぶっている実力者を、移籍金なし(譲渡金がかかる場合もありますが)で獲得できる可能性があるからです。期限間際のウェーバー公示は、優勝争いやAクラス入りを目指す球団にとって、最後の補強手段としての意味合いを強く持ちます。
また、帰国を希望する外国人選手や、家庭の事情で退団せざるを得なくなった選手についても、まずはウェーバーにかけられます。この場合、公示期間が過ぎて自由契約にならない限り、他球団は公式に交渉することができません。ルールを守って秩序ある移籍を実現するために、公示はシーズン中も休むことなく運用されています。
ウェーバー制における獲得の優先順位とルール

ウェーバー公示の肝となるのが、獲得希望が重なった際の「優先順位」です。誰が一番に選手を選べるのかというルールは、リーグの公平性を保つための生命線といえます。ここでは、具体的にどのような計算で優先順位が決まるのか、その仕組みを深掘りしていきましょう。
順位が低いチームほど有利になる逆指名方式
ウェーバー制の基本は、「現在の勝率が低いチームから順番に獲得権が与えられる」という点にあります。これはアメリカのメジャーリーグ(MLB)から取り入れられた考え方で、成績が振るわないチームに優先的に戦力を供給することで、リーグ内の力の差を縮める効果があります。これを逆指名方式、あるいはリバース・ウェーバーと呼びます。
例えば、リーグ最下位のチームは、ウェーバー公示された選手を真っ先に獲得する権利を持っています。最下位チームが「いらない」と言えば、次に5位のチーム、その次は4位……というように、順位が上がるにつれて優先度は下がっていきます。チャンピオンチーム(優勝チーム)は、最後に回ってくることになります。
この仕組みがあるため、人気のある選手が公示された場合、下位チームにとっては非常に大きな補強チャンスとなります。逆に上位チームは、他球団が全て見送るまで待たなければならず、なかなかウェーバーで選手を獲得するのは難しいのが実情です。まさに「弱きを助ける」ための、スポーツマンシップに基づいたルールと言えるでしょう。
同一リーグと他リーグでの優先度の違い
日本プロ野球(NPB)の場合、セ・リーグとパ・リーグの2リーグ制をとっているため、順位だけでなく「どちらのリーグに所属しているか」も優先順位に関わってきます。原則として、「公示された選手が所属していたリーグの球団」が優先されます。
例えば、セ・リーグの球団からウェーバー公示された選手がいる場合、まずはセ・リーグの最下位チームから順に権利が回ります。セ・リーグの全6球団が獲得を希望しなかった場合、次に初めてパ・リーグの最下位チームから順に権利が移ります。これを「リーグ優先の原則」と呼びます。ただし、交流戦の時期やオールスター後の順位計算など、細かいタイミングによってどちらのリーグが先になるかのルールが入れ替わることもあります。
このルールによって、同一リーグ内でのライバル球団への移籍が起こりやすくなっています。ファンにとっては、昨日まで応援していた選手が同じリーグの敵チームに移籍し、すぐに試合で対戦するという、少し複雑な心境を味わうことになる仕組みでもあります。しかし、選手にとっては慣れ親しんだリーグでプレーを続けられるメリットもあります。
公示期間内に獲得希望が出なかった場合の流れ
ウェーバー公示の期間は「土日祝日を除く7日間」と決まっています。この期間中にどの球団からも獲得の申し込みがなかった場合、そのウェーバーは「不成立」となり、その選手は自動的に「自由契約」という身分に切り替わります。
自由契約になると、ウェーバー順などの縛りは一切なくなります。どの球団とも、年俸や契約期間について自由に交渉することが可能です。下位球団の優先権もなくなるため、上位球団や金銭的に余裕のある球団も対等に交渉のテーブルに着くことができます。ウェーバーで決まらなかったからといって、その選手に魅力がないわけではありません。移籍金や年俸の引き継ぎを嫌って、あえて自由契約になるのを待ってから交渉を始める球団もあります。
また、自由契約になれば日本国内の球団だけでなく、アメリカのメジャーリーグや韓国、台湾のプロ野球、あるいは国内の独立リーグなど、世界中のどのチームとも契約できるようになります。公示期間の7日間は、いわば「NPB内部での権利整理期間」であり、それが終わることで選手の選択肢は一気に世界へと広がっていくのです。
ウェーバーの優先順位の計算に使われる成績は、前年度の順位ではなく「公示された時点でのそのシーズンの順位」が基準になります(シーズン序盤は前年の順位を使うこともあります)。そのため、リアルタイムの勝敗が、移籍マーケットでの有利・不利に直結する非常にシビアなシステムです。
ウェーバー公示を巡る球団の戦略と獲得のメリット

球団経営の視点から見ると、ウェーバー公示は単なる手続き以上の「戦略的な戦場」でもあります。どの選手を公示し、逆に公示された誰を拾い上げるのか。そこには、ゼネラルマネージャー(GM)や編成担当者たちの高度な駆け引きが隠されています。球団がどのようなメリットを狙って動いているのかを探ってみましょう。
即戦力の補強を狙う下位球団の思惑
成績が低迷している下位球団にとって、ウェーバー公示は喉から手が出るほど欲しい補強のチャンスです。特に怪我人が続出して特定のポジションに穴が空いてしまった場合、自前で新外国人を探したりトレードを画策したりするよりも、ウェーバーで他球団の余剰戦力を獲得する方が迅速に問題を解決できることがあります。
公示される選手は、現在のチームでは事情があって出場機会がないだけで、実力的には一軍で十分に通用するレベルにあることも多いです。そうした選手を「優先順位」という武器を使って、ライバル球団に取られる前に確保できるのは下位球団ならではの特権です。一人の選手の移籍がきっかけでチームの雰囲気が変わり、逆転劇が始まることも珍しくありません。
また、獲得した選手が他球団の内部情報(配球の癖や作戦など)に詳しい場合、戦力以外の面でもプラスになることがあります。球団は単に身体能力だけでなく、そうした付加価値も含めて、ウェーバー順を行使するかどうかを慎重に判断しています。
年俸の引き継ぎなど金銭面での取り決め
ウェーバー公示による移籍の大きなメリットの一つに、金銭的な手続きの簡素化があります。ウェーバーで獲得した球団は、その選手が元の球団と結んでいた「現在の契約条件をすべて引き継ぐ」ことがルールで決められています。つまり、年俸交渉を一からやり直す必要がありません。
球団にとっては、予算の計算が立ちやすいという利点があります。すでに決まっている年俸の残りの期間分を支払えばよいだけなので、不透明な上乗せが発生しません。また、トレードのように交換要員を出す必要もありません。一定の譲渡金(多くは数百万円程度とプロの世界では少額)を支払うだけで済むため、低コストで戦力を補強できる非常に効率的な手段なのです。
ただし、これは裏を返せば、非常に高額な年俸の選手がウェーバーに出された場合、下位球団は手が出せないということも意味します。実力はあってもコストが見合わない選手は、ウェーバーをスルーされ、自由契約になってから「年俸を下げて」再交渉される運命にあります。この「金額と実力のバランス」を見極めるのも、球団の腕の見せどころです。
選手枠(支配下選手登録)の調整と運用
プロ野球の各球団は、支配下選手として登録できる人数が「最大70人」と決まっています。この枠をいかに効率よく使うかが、長いシーズンを戦い抜くための鍵となります。ウェーバー公示は、この枠を調整するためのツールとしても活用されます。
例えば、新しい外国人選手を急遽獲得したいが、すでに枠が70人いっぱいの時。球団は現在いる選手の中から、貢献度の低い選手をウェーバー公示にかけ、枠を空ける決断をします。公示期間の7日間が過ぎれば枠が1つ空くため、そこへ新しい選手を登録できる仕組みです。このように、選手個人の能力だけでなく、チーム全体の「枠の管理」というパズルのために公示が行われることがあります。
また、育成選手を支配下へ昇格させる際も、枠が空いていなければ誰かを公示しなければなりません。ファンからすれば「なぜ今この選手を?」と思うようなタイミングの公示も、実は数日後に発表される新戦力獲得や昇格ニュースのための「場所空け」である場合が多いのです。公示の裏にある「枠のドラマ」を知ると、球団の次の一手が予想できるようになります。
【補足:譲渡金の仕組み】
ウェーバー公示で選手を獲得する場合、獲得した球団は元の球団に対して「譲渡金(じょうときん)」を支払います。金額はNPBの規定で決まっており、選手の年俸などに応じて算出されます。高額なトレードマネーとは異なり、あくまで手続き上の実費に近い性格のものです。これにより、元の球団も最低限の補償を得ることができます。
ウェーバー公示と似ている制度やMLBとの違い

ウェーバー公示をより深く理解するために、混同されやすい他の制度との違いを確認しておきましょう。特にアメリカのメジャーリーグ(MLB)のウェーバー制度は日本よりもはるかに複雑で、日本のルールがどのように独自に進化してきたのかを比較すると、NPBの仕組みがより際立って見えてきます。
自由契約(リリース)との大きな違い
「ウェーバー公示」と「自由契約」は、どちらもチームを離れるという意味では似ていますが、手続きの順番と権利の有無が決定的に違います。自由契約は、公示期間が終わった後、あるいは特定の条件を満たした場合にのみ成立する「どの球団とも交渉できる完全フリーな状態」を指します。
ウェーバー公示中は、まだ選手は元の球団の支配下にあり、他球団は「獲得の申し込み」はできますが、選手と直接年俸などの交渉をすることはできません。提示された条件で入団するか、拒否して引退するかという選択になります。対して自由契約になれば、選手は自らエージェントを立てて、より良い条件を求めて複数の球団と交渉できるようになります。
球団側から見れば、ウェーバーは「できればこの条件で誰かに引き取ってほしい」という意思表示であり、自由契約は「誰が獲っても構わない(権利を完全に手放す)」という最終決定です。この二つの言葉の違いが分かると、ニュースの重要度が正確に把握できるようになります。
メジャーリーグ(MLB)におけるウェーバーの複雑な仕組み
野球の本場アメリカのMLBでもウェーバー公示は頻繁に行われますが、日本よりもはるかに種類が多く、複雑です。例えば、選手に公示を知らせずに行う「アンアウンスド・ウェーバー」や、移籍を前提としない「リバッカブル・ウェーバー(撤回可能なウェーバー)」など、かつては多様なルールが存在しました。
特に有名なのが、8月末までに行われていた「トレード・ウェーバー」です。これはトレード期限を過ぎても、全球団が獲得を見送れば(ウェーバーを通過すれば)、その後で個別にトレード交渉ができるという非常にトリッキーな仕組みでした。しかし、現在ではルール改正が進み、こうした複雑な制度は廃止され、よりシンプルな形に統一される傾向にあります。
NPBのウェーバー制度は、こうしたMLBの歴史を参考にしつつ、日本のプロ野球文化に合わせて「より分かりやすく、公平に」アレンジされたものです。MLBのニュースを見る際に「Waivers」という言葉が出てきたら、日本の制度よりも少し戦略的な「駆け引き」の要素が強いことを思い出してみてください。
トレード期限後に見られる「トレード・ウェーバー」の有無
かつての日本やアメリカでは、通常のトレード期限を過ぎても「ウェーバーを通過させる」というワンクッションを置くことで、事実上のトレードを継続できる時期がありました。しかし、現在のNPBでは公平性を重視し、トレード期限を厳格に守る運用がなされています。
期限を過ぎてからの選手移動は、基本的にはウェーバー公示による「そのままの条件での譲渡」に限られます。裏で条件を調整するようなトレードは認められません。これにより、シーズン終盤の優勝争いに、金銭的な力を使って無理やり戦力をかき集めるような不公平な補強を防いでいます。
ファンの間では「期限が過ぎたからもう移籍はない」と思われがちですが、ウェーバー公示だけは例外的に発生する可能性があります。ただし、この時期の公示は選手獲得というよりも、冒頭で触れた「育成への切り替え」や「帰国に伴う整理」といった事務的な理由が大半を占めるのが最近の傾向です。
| 項目 | ウェーバー公示 | 自由契約(リリース) |
|---|---|---|
| 交渉相手 | ウェーバー順に従い1球団ずつ | 全ての球団と同時に可能 |
| 年俸条件 | 前所属球団の契約を引き継ぐ | 新しく交渉して決定する |
| 譲渡金 | 獲得球団が支払う(定額) | 発生しない |
| 主な目的 | リーグ内の公平な再配置 | 契約の完全終了・自由な移籍 |
日本プロ野球(NPB)における印象的なウェーバー公示の事例

ウェーバー公示は、時として選手の運命を劇的に変えることがあります。これまでに、この制度を通じて新天地に渡り、そこで大復活を遂げたり、チームの優勝に貢献したりした選手が何人もいます。過去の事例を知ることで、この制度が持つ「再生の力」を感じることができるでしょう。
移籍をきっかけに大活躍した選手の事例
過去には、ウェーバー公示を経て他球団へ移籍し、そこで主力選手へと成長した「シンデレラストーリー」がいくつもあります。ある球団では「便利屋」としての起用が主だった投手や、怪我で長く二軍生活を送っていた野手が、ウェーバーで獲得した新球団で先発ローテーションに入ったり、クリーンアップ(中軸打者)を打つようになったりする例です。
こうした活躍が見られると、ウェーバーで獲得を決断したスカウトや編成担当者の評価も爆上がりします。公示された選手をただの「余剰戦力」と見るか、それとも「まだ磨けば光る原石」と見るか。球団の「眼力」が試される瞬間です。選手本人にとっても、一度は「戦力外に近い扱い」を受けた悔しさをバネに、新天地で見返すという強いモチベーションが好結果につながるのかもしれません。
2026年シーズンも、もしかすると現在公示されている誰かが、来年には他球団のヒーローになっている可能性があります。公示のニュースが出た際、「この選手はあのチームに行けば活躍しそうだな」と予想してみるのも、通な野球の楽しみ方です。
複数球団が重なった場合の抽選とルール
ウェーバー公示で、もし複数の球団が同時に獲得を希望したらどうなるのでしょうか。ドラフト会議のように抽選(くじ引き)が行われるわけではありません。前述した「順位に基づく優先権」が絶対的なルールとして適用されます。
例えば、5位の球団と2位の球団が同時に手を挙げた場合、無条件で5位の球団に獲得権が与えられます。どれほど2位の球団が熱意を持っていても、ウェーバー順には逆らえません。このため、下位球団は上位球団の補強を「阻止」するために、あえてウェーバー順を行使することもあります。これを「ブロック」と呼ぶこともあります。
こうした駆け引きは、特にシーズン中盤以降の、順位が固定され始めた時期に熱を帯びます。欲しい選手が自分のチームまで回ってくるかどうか、担当者は他球団の動向を必死に探ります。ファンからは見えないところで、熾烈な椅子取りゲームが行われているのです。
ウェーバー公示後の「自由契約」との決定的な違い
最後に、ウェーバー公示を経て「自由契約」になった選手たちが、その後どのような道を歩むのかについても触れておきましょう。ウェーバーでどこからも指名されなかった選手は、いわば「NPBの12球団が、現在の条件では獲得しない」という判断を下された状態です。一見すると厳しい状況ですが、ここからが本当の勝負の始まりです。
自由契約になった後は、選手は年俸の大幅な減額を自ら受け入れることで、契約を勝ち取れるようになります。また、NPB以外の選択肢、例えば海外リーグや、近年注目を集めている独立リーグで結果を残し、再びNPBへ「返り咲き」を目指す選手もいます。ウェーバー不成立は終わりではなく、自分自身の価値を再設定して再出発するタイミングなのです。
公示という公的なプロセスを通ることで、選手のステータスが明確になります。球界全体でその選手の状態を共有し、次のステップへとつなげていく。ウェーバー公示は、プロ野球という巨大な組織が、選手一人ひとりのキャリアを公平に、かつスムーズに回していくための知恵の結晶と言えるのではないでしょうか。
ウェーバー公示とはプロ野球の公平性を守り、選手にチャンスを与える大切なルール
ウェーバー公示について、その仕組みや役割を詳しく解説してきました。最後にこの記事のポイントを振り返ってみましょう。ウェーバー公示は、プロ野球界において非常に合理的な、以下のような役割を果たしています。
・球団が契約を解除する前に、他球団へ優先的に獲得チャンスを与える制度である
・獲得の優先順位は、その時点での「順位が低いチーム」が優先される逆指名方式である
・公示期間は7日間で、この間に獲得者が現れなければ「自由契約」となる
・選手の年俸や契約条件がそのまま引き継がれるため、選手の利益も守られる
・下位球団にとっては戦力を一気に底上げできる絶好の補強機会となる
何気なく眺めていた移籍ニュースの中にある「ウェーバー公示」という5文字には、リーグ全体の戦力バランスを保つための知恵や、選手の雇用を守るための優しさ、そして球団間の熱い戦略バトルが詰まっています。この仕組みを知ることで、球団が発表する一見不可解な選手整理の裏側や、意外な移籍劇の理由がすっきりと理解できるようになったのではないでしょうか。
2026年シーズンも、多くのドラマがグラウンド内外で生まれることでしょう。お気に入りのチームにウェーバー公示で新しい仲間が加わったときは、それがどのような優先順位で、どのような期待を込めて獲得されたのか、ぜひ注目してみてください。ルールを知れば知るほど、プロ野球というスポーツはもっと面白く、もっと奥深いものになっていきます。この記事が、あなたの野球観戦をさらに楽しくするヒントになれば幸いです。


